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サキュレント・ガーデンについて

その① 製作の経緯

 

 ゲームマーケット2022秋まであと1ヶ月あまりとなりました。

 ありがたいことに、今年もスタジオユーエフが関わったゲームが発売されます。

 タイトルは「サキュレント・ガーデン」。愛知県日進市のボードゲーム専門店「ファニーテーブル」さんが企画・製作したオリジナルゲームです。

 

 昨年の11月末、ファニーテーブルさんからDMでオリジナルのボードゲーム製作のご相談がありました。「かばんにいっぱい」(A&R GAMES)の時はアートワークのみでしたが、今度はゲームシステムも含めてのご依頼でした。弟は「新しいアイデアが出るかどうかわからない」「慎重に検討する」という方針でしたが、ぼくはやる気になりました。これまでの作品を評価していただけていることが嬉しかったからです。

 前向きに検討する旨の返信をして、詳しい内容について伺ってみることにしました。

 

 

 

その② アイデアが生まれるまで

 

 返事を待つ間にアイデアのメモを見返してみましたが、使えそうなものが無くがっかりしました。そこで散歩をしながら考えていると、「大熊山」というすごろくゲームの拡張用に考えたアイデアがあったのを思い出しました。

 山男たちがお月見をしながら団子を食べるのですが、小さな団子を優先的に食べるため、大きな団子を持っていったプレーヤーはそれを食べられずに帰ってくるのです。ただ、大熊山ではこのアイデアの潜在的な可能性を引き出せていないように感じていました。

 この団子システムを独立させて、新しいゲームにすればどうだろう、と考えましたが、その時は適当なモチーフが思いつきませんでした。

 

 数日後返信があり、詳しいお話を聞くことができました。ファニーテーブルはご夫婦で営んでいるお店でした。お二人とも植物が好きなので、多肉植物の寄せ植えをモチーフにゲームを作れないかと考えていること、ボードゲームに詳しくない人や子ども連れの家族などもお店に訪れるので、そういうお客さんにも薦められるようなシンプルなゲームにしたいことなどが分かりました。

 ここまでの内容はユーエフにぴったりだと思いましたが、問題はゲームシステムです。

 

 多肉植物の寄せ植えをゲームにする場合、その美しさを判定する、あるいは特定の組合せに順位をつける(セットコレクションといいます)という方向性がありうると思いました。

 ただ、美しさの判定は主観によるので、勝敗の判定が難しいという問題があります。セットコレクションは大変人気のシステムですが、その分個性を出せないのではないかと思いました。

 それならば大熊山の団子のように、思い切ってモチーフをサイズの問題にまで単純化してしまおうと思いつきました。小さい株と大きい株、どちらを出そうか迷うゲーム。

 鉢に隙間なく多肉植物を植える「寄せ植え」というモチーフが、団子システムにピッタリはまったのです。こうして「サキュレント・ガーデン」の元になるアイデアが生まれました。

 

 すぐに試作品を作りました。最初はすごろくゲームを作り、翌日カードゲームに変更しました。その際、すごろく盤によって担保されていた不確実性を、他のアイデアで代替せねばなりませんでした。そこで、カードを複数枚並べてプレーヤーが共有する場を設け、プレーヤーの思惑がぶつかりあって不確実な事が起きるよう企図しました。

 プレーヤーが一斉に手札からカードを出し、数字の小さいカードから優先して、目的カードの上に置いていく。数字が大きすぎるとどこにも置けず失点する。数字を足し算して目的カードの数字とぴったり同じになったときに得点になる…というのが基本的なアイデアです。

 

 試しに家族でプレーしてみると、思った通りに働き、ゲームとして成立していることがわかりました。

 ぼくは喜んだのですが、弟は難しい顔をしていました。このルールでは、小さい数字を出したプレーヤーが大きい数字を出したプレーヤーを自由に妨害できます。弟はこの点を問題視し、大きい数字にチャレンジしたプレーヤーが妨害されすぎないような工夫が必要と考えたようです。

 そこで、翌日弟が提案したのが「左に並んだ目標カードから順に置く」という制約でした。ぼくは何でも自由に選べる方が好みなので内心反対でしたが、試してみるとはるかに面白くなっており、本来の「団子システム」の意図がうまく反映されていることがわかりました。

 このアイデアがプラスされたことよって、本当にサキュレント・ガーデンが生まれたといえます。ぼくは弟に感謝し褒め称えました。

 

 

 

その③ 山を越え、距離を超え

 

 今思い返すと、サキュレント・ガーデンの制作には越えるべき4つの山がありました。

①根幹のアイデア(シンプルで新しいものを)

②カードのイラスト(たくさんの多肉植物と庭の絵を、輪郭線を用いず写実的に描く)

③パッケージのデザイン(興味を引き、かつ見飽きないデザインにする)

④ルールの最適化と説明書の作成(できるだけ遊びやすくする)

 

 ①は奇跡的にスムーズに行きました。②と③も(それなりに苦労しながらも)楽しくできましたが、④に最も苦戦しました。ルールの調整は何が正解か分からず試行錯誤が必要ですし、説明書の作成は頭を使う上に際限なく修正が続きます。

 

 本来なら試作品を持っていってお話したかったところですが、香川県と愛知県という距離もあり、新型コロナウイルスの流行下でもあるので、ファニーテーブルさんには試作品の複製を送り、独自にプレーして判断してもらうことにしました。ルールの詳細について電話で相談を重ね、いろいろな提案をしていただきました。そのおかげで、ユーエフの作品の中でも最も遊びやすいゲームになったのではないでしょうか。

 制作の終盤では粘り強く校正をしていただき、大きな誤植を発見していただきました。この点も本当に感謝です。(この件は思い出してもヒヤヒヤです。印刷を差し止めて対応してくださったBGMさまにも感謝です。)

 

 

 2022年9月15日、サキュレント・ガーデンの印刷、箱詰めが完了し、3日後にぼくらも完成品を受け取りました。完成品はとてもきれいで、感慨深いものがありました。ファニーテーブルのお二人のご希望に沿ったものができたと思いますし、ぼく自身も納得のいくものができました。

 あとは遊んでくれた人が、このゲームを好きになってくれたら言うことなしです。関わっていただいたみなさま、ありがとうございました。